2013年7月15日月曜日

杉江松恋を査定する・その2

7月3日(水)
『東海道でしょう!』(幻冬舎文庫)はこの日が全国発売日だと思っていたのだが、出庫の日ということで(版元が売上げを立てるのだから発売日で間違いない)、店頭に並ぶのは5日だと判明。仕事のための読書をしながら雑務にも追われる。この時点で5月末に払うべき原稿料を払ってくれていない版元が一つあり、額の多寡はともかくとしてその態度の誠意のなさにいらいらしていた。お金の話はして当然なので版元にも問い合わせをするが、そのたびにどっと疲れる。向こうは勤め人でこちらはフリーランスという立場を痛く思い知らされるからだろう。まあ、負けないけどな。

 子供がこの日から修学旅行で不在だったので、妻と二駅先にある銭湯まで遠征し、帰りに駅前にある居酒屋で飲む。


7月4日(木)
 WEB本の雑誌に原稿送付。この週のお薦めミステリーは匿名作家フィリップ・カーターの『骨の祭壇』(新潮文庫)である。

 某作家の仕事場でインタビューをした後、地下鉄銀座線の稲荷町駅まで足を延ばして「鶴の湯」で休憩。二日連続で銭湯で憩えるのは自分にとってはたいへんな贅沢だ。この鶴の湯はサッシなども木製のままだし、番台方式の昔ながらの銭湯である。タオルを無料で貸してくれた上にボディーソープやシャンプーまでただで使わせてくれるので非常に立ち寄りやすい、いいお湯屋さんなのだ。
 夜は池袋コミュニティカレッジにて定例の講座。この日のテーマは「文章化できない問題は解決できない」。ということで、それぞれが今の制作でぶつかってしまっている課題について、何が障壁になっているのか、それをどうやって解決するつもりか、を1200字程度で書いてきて発表してもらった。聞きながらアドバイスをしているうちにお時間。


7月5日(金)
 晴れて『東海道でしょう!』(幻冬舎文庫)の発売日となった。みなさま何卒よろしくお願い申し上げます。考えてみたら、いわゆる「原作つき」ノベライズ以外の著書はひさしぶりだし、エッセイ本は私を出すのは私にとって初めての体験なのであった。それだけに世評と売れ行きが気になる。世間のみなさまに可愛がってもらえますように。

 午後、某サイトのライター氏が来て、インタビューを受ける。ミステリーがらみの内容で、7月中には公開される由。内容については、いずれそのうち。

 修学旅行から子供が帰還。お土産ということで孫の手をもらった。おお、やるな、わが子よ! ちょうど欲しかったのだ。


7月6日(土)
 LIVE WIREが発行しているメルマガに連載「君にも見えるガイブンの星」を送付。内容は6月21日(金)のイベントで配布したドン・デリーロ特集のレジュメに加筆したものである。この原稿でデリーロの全邦訳著作を俯瞰できてお得、のはず。これからもメルマガではレジュメ原稿などをお配りしていき、またイベントの前には準備の様子なども報告する予定なので、お読みいただけますと幸いです。


7月7日(日
 場合によってはこの日から仙台に入ろうかと思っていたのだが、仕事の進み具合を見て断念。翌日に出発することにした。もろもろの読書と原稿書き。「野性時代」掲載予定の綾辻行人インタビューを仕上げて送付。ほぼ徹夜で原稿を二つ仕上げる。「水道橋博士のメルマ旬報」の連載「マツコイ・デラックス」、課題本は常松裕明『笑う奴ほどよく眠る 吉本興業・大崎洋物語』(幻冬舎文庫)である。博士にお会いしたとき、「出版や音楽業界のタブーに触れる印税率のことが書いてある」と教えていただいていたのだが、読んでみたらそこはあまりたいした暴露ではなかった(音楽業界のほうは知らない)。この程度のことならよく出てくる。それより大崎が営業のやり方を書いた部分のほうがおもしろかった。

 もう一本の原稿は、学研のサイト「ほんちゅ」に載せる道尾秀介・谷原章介対談の第2回までのもの。時間切れで第3回分は勘弁してもらい、切りのいいところまで書いて送った。ここまででもう夜が明けるのはもちろん、そろそろ出発の時刻である。


7月8日(月)
 そんなわけで仙台市へ。新刊『死神の浮力』(文藝春秋)が発売になる伊坂幸太郎氏のインタビューのためである。駅前のメトロポリタン仙台でお話を伺ったのだが、伊坂氏は変わりない様子でお元気であった。

 インタビュー終了後は、バスに乗って萬葉堂書店鈎取店へ。有名な巨大古書店で、特に地階には掘り出しものがごろごろしている。ここに来るためにわざわざ予定を調整し、自腹を切って仙台に一泊することにしたのである。もろもろ収穫があって市内に戻り、街中を散策する。何軒か本屋を回ったが、『東海道でしょう!』はまったく動いた形跡がなかった。東海道から遠く離れた地だけに当然ともいえるのだが、それでのほほんとしていられるほどこの稼業は甘くない。東京に帰ったら必ず編集者と善後策を打ち合わせようと心に刻みこみ、就寝。


7月9日(火)
 昼過ぎに帰京。パソコンを開いてみると週末に送付した原稿のいくつかに修正依頼が来ていたのでとっとと直して再送付する。こういうところでがんばっても仕方ないので、編集者の意図を汲んで直すに限る。時間の無駄だ。

 夜、北尾トロさんの荻窪の事務所「ランブリン」へ。トロさんとえのきどいちろうさんんが毎週火曜日に放映している「北尾トロアワー」において、『東海道でしょう!』の宣伝をさせていただけるというのである。ありがたいことだ。事務所に入ると、なぜか日本体育大学のポロシャツを着ているえのきどさんに遭遇。中央大学出身のはずなのに。「中大パンチ」の発行人なのに! その流れでポロシャツ談義に。トロさんは絶対にポロシャツを着ないのだという。理由は、ポロシャツは胸板のある人間が着るものだから。胸板のあるえのきどさんと、腹肉のある杉江でトロさんを挟んで『東海道でしょう!』についておしゃべり。こちらのアーカイブから視聴が可能です。よろしく。

 終了後はさすがにふらふらになって帰還するも、休めず、そのまま原稿書きに入る。翌日は一日外出のため、仕事の時間がとれないからだ。うぎぎ、と唸りながら原稿。


7月10日(水)
 というわけでまた外出。7時45分に新宿西口のスバルビル前で待ち合わせてロケバスに拾ってもらう。AXNミステリーBOOK倶楽部、夏の恒例行事である野外ロケだ。今回は富士が世界遺産に登録された記念で富士を臨める西湖畔にて。前日に一嵐あったおかげか、雲が吹き飛ばされて霊峰の全貌が見える。ありがたや。

 あちこち回って撮影。途中のコウモリ穴で社会科見学らしい小学生の集団に出くわす。みな礼儀正しく「こんにちはー」と挨拶をして通る。こちらがカメラを構えているのを見た子の一人が「何月何日に放映ですかー」と言ってくるが、曖昧に微笑む。少年よ、世の中には君が見ている地上波だけではなくいろいろな放送があるのだ。
 帰りの高速道路はたいへんに混んで三時間。さすがにこの日は原稿書きもできずに就寝。


7月11日(木)~12日(金)
 なんだかんだで机に向かえる時間がとれない日が連続したので、死ぬ気で仕事。インタビュー原稿を2本仕上げて送付。これは来月の「ダ・ヴィンチ」と「ダ・ヴィンチ電子ナビ」用である。それからWEB本の雑誌用にコーマック・マッカーシー『チャイルド・オブ・ゴッド』(早川書房)の書評。

 ここまで書いてこなかったが、翌週には芥川・直木両賞の発表もあるので、全候補作も読まなければいけない。紆余曲折はあったが、下北沢B&Bで受賞作決定後にメッタ斬りコンビの大森望さん、豊崎由美さんに混じって候補作を振り返るトークイベントをやることも決定した。それに併せてエキレビでまた全作レビューもやるので、準備をしなければならない。翌日は恒例の辻真先さんイベントだ。
 まあ、いろいろあるわけだよ!


7月13日(土)
 夕刻から新宿BIRIBIRI酒場にて、辻真先さんに過去のお仕事を回顧していただくトークイベント。今回は1983年のお仕事と、看板の1つである〈迷犬ルパン〉シリーズについて振り返っていただいた。〈迷犬ルパン〉についてここまで突っ込んでお話をうかがったインタビュー、イベントはこれまで無かったはずであり、私がいちばん楽しませていただいた。役得である。次回は8~9月の予定だが日程はまだ決まっていない。9月に〈ポテト&スーパー〉シリーズの完結篇が出るので、それに合わせたいと思っている。乞うご期待。


7月14日(日)
 ぐったりしつつも仕事。ほぼ一日本を読んで過ごし、細々と原稿も。一本は「早稲田文学」のためのもので、内容はまだナイショ。
 もう一本は19日に迫った「杉江松恋のガイブン酒場」の告知文。今回はコーマック・マッカーシー特集だが、新刊も3冊紹介します。マッカーシー『チャイルド・オブ・ゴッド』、ジンバブエの作家ペティナ・ガッパ『イースタリーのエレジー』(新潮クレストブック)、イタリア作家ステファノ・ベンニの奇想短篇集『海底バール』(河出書房新社)の3冊である。こちらもぜひご観覧ください。


というわけで嵐のような日々はおしまい。違う方向への努力は今回お休み、死なないようにするので精一杯でした。毎日の仕事をコツコツやるのも大事なのだよ、うん。



2013年7月3日水曜日

杉江松恋を査定する・その1(違う方向に努力する・改)

 こんにちは、杉江松恋です。
 前回まで北尾トロさんの「ヒビレポ」で連載させてもらっていた業務日誌を、所を変えてこちらで継続することにしました。杉江松恋がライターとして日々どんな活動をしているか、書けることはだいたい書いています。ご参考になるかどうかはわからないのですが、よかったら読んでください。


  6月24日(月)

 これが最終回となる「ヒビレポ」の「杉江松恋の違う方向に努力する」と「水道橋博士のメルマ旬報」の原稿を送付。おそろしいことに「メルマ旬報」は配信前日である。つまり土俵際、というか徳俵に足がかかった状態、本当ならギリギリで原稿は落ちるタイミングだ。あまりの暴挙に反省。「メルマ旬報」の書評課題作は清水ミチコ『主婦と演芸』(幻冬舎)だった。書き終えてから書籍化の担当編集者が『東海道でしょう!』でお世話になったガース氏であることに気づく。
 その後、某新刊の帯に載せてもらう推薦文を考える。自分にはコピーライティングの才能がないと思っているので、推薦文を書くのは苦手だ。ごくごく短めの書評をやっているつもりで70字にまとめてみた。


  6月25日(火)

 午前中、講談社にて『襲名犯』で今年の乱歩賞を獲得された竹吉優輔氏にインタビュー。竹吉氏の原稿は自分の一次箱に入っていたものなので、感慨深い。
 護国寺、鬼子母神と続けて参詣してから帰ろうと思っていたのだが、雨が激しくなってきて断念。とっとと帰宅する。ひたすら仕込みのための読書と6月末〆切りの某賞のための下読み。家にいると業務連絡メールが立て続けにくるので精神衛生上ヨクナイ。


  6月26日(水)

 前日からラストスパートをかけていた下読みを終わらせ、評価を編集者に送付。また、先週の道尾秀介・谷原章介対談の音声起こしが上がってきたので、手を入れて編集者に転送する。あとはメールでスケジュール調整に忙殺。この日だけで7月の予定はすべて決まってしまった感じだ。一日を終えてから、7月はもっと余裕のある日程にすべきだった、と少し後悔する。しかしライターだから来た球は全部打ち返すのが基本だ。


  6月27日(木)

「WEB本の雑誌」原稿がまだだったので、腹を決めて長岡弘樹『教場』(小学館)に決めて書き、送付。その日のうちに掲載された。
 この日だったかは怪しいのだが、面識のない方からメールをいただき、その返信の仕方に少しだけ悩んだ。選択肢は二つあって、好かれる返事と嫌われるかもしれない返事のどちらも可能である。考えた末に嫌われるかもしれない返事のほうを選んだ。好かれる返事のほうを選択すると、その場はいいかもしれないが後で後悔する可能性が大だからだ。もういい年なので、八方美人でばかりもいられない。嫌われるべきときはしっかり嫌われないといけないのだと思う(ありがたいことにメールは真意がきちんと伝わり、誠意ある態度を先方から取っていただけた。感謝)。これが今週努力したことだな。「嫌われる覚悟で筋を通す」だ。
  夜は先週体調不良でお休みした池袋コミュニティカレッジの講座。受講者の提出物にコメントし、再提出を求める。かつ、「現時点での自作の課題について1200字でまとめる」ことを要請。言語化できない問題点や課題は、結局解決不能。しかし言語化できたこと自体に満足してしまえば、それもやはり解決不能。自分で自分の背中を押せるように、うまいこと「指示書」を書ければ正解だ。


  6月28日(金)

『東海道でしょう!』(幻冬舎文庫)の見本が到着。企画が持ち上がってから、ここまで約1年半かかった。長かったなあ。

   

 夕方から都内某所に移動し、「水道橋博士のメルマ旬報」企画会議の場にお邪魔する。目的は水道橋博士に「なぜメルマガなのか」のインタビューをすること。博士に直接お会いするのは10年ぶりぐらいか。いや、もっとだ。あとでtwitterに、サングラスを外したところは初めて見た、と書かれていた。そういえばそうだ。もう会社員ではないしPTA会長でもないので、顔を隠す必要がなくなったからです。
 取材に同行してくれた編集Cと、後から来てくれた編集Kとともに渋谷でしばし打ち合わせという名の飲み会。ただしいろいろ真面目に相談する。テーマは「7~9月期の杉江松恋の目標について」。例によっていろいろダメ出しをされる。相変わらず君らは手加減ないね。


  6月29日(土)~30日(日)

 一応仕事はしたが、基本的にはオフ日。翌週には子供が修学旅行に出かけるので、その支度などでいろいろ忙しくはあった。


  7月1日(月)

 都内某所にて道尾秀介さん対談企画の第二回を収録。道尾さんがご自身でtwitterに書かれていたので情報解禁でいいと思うが、お相手は女優の佐藤江梨子さんである。実は以前、佐藤さんが主演された映画「口裂け女 the movie」のノベライズを手がけたことがあり縁はなくもないのだが、そのことは言わずにおいた。というのもノベライズは、映画とはほぼ無関係な別の話であり、佐藤さんが演じた教師の主人公などもまったく登場しない内容だからである。版元の富士見書房から自由にやっていいと言われて本当に好き勝手やらしてもらった愛着ある作品。口裂け女が出てくるときの生理的な嫌悪感を出そうと思って、大量のフナムシと一緒に現れることにしたり、口が裂けた理由を自分なりのエピソードで補ってみたり、書いていて楽しかった……という話は、当たり前だが対談のテーマとは関係ない。つまり話題としては没にするのが妥当であった。
  終了後はしばらくウォーキングをして帰宅。歩数が一万を超えた。


  7月2日(火)

 自分としては珍しく一日出ずっぱりだった。まず正午に高田馬場で編集者と落ち合い、某誌の次々号の企画についていろいろとブレスト。この段階で7月の予定はパンパンになっているのだが、あまり考えないようにする。いざというときは記事を他の人に書いてもらえば済む話である。
 その後同じ高田馬場で歌野晶午さんにお会いし、インタビュー取材。歌野さんには2012年の年末、ほとんど仕事納めという日にも取材を行っていた。お会いするのはそれ以来である。
 取材終了後は歩いて渋谷を目指した。明治通りをひたすら歩けば渋谷には着くのだが、途中で間に合わないと判断し、新宿三丁目~明治神宮前を二駅分ショートカットした。渋谷では『楽園の蝶』(講談社)を出されたばかりの柳広司さんを取材。柳さんにお会いするのも何年前か覚えていないぐらいひさしぶりだ。
  その後、渋谷で別件の打ち合わせ。編集Aとこれまたひさしぶりの対面で今後のことについてあれこれ。Aは今年の春から環境が大きく変わって、まだその調整期にある。とにかく健康第一でがんばって、と言って別れた。

  こんな感じの一週間でした。


  終わりに、7月期も始まったことであるし、この四半期の目標について書いてみたいと思う。  前期の目標とその反省については「ヒビレポ」連載の最終回に書いた。 自己評価は72点、通信簿の評価で言うと「3」で、これでは「二流」止まりということになる。なんとか「一流」を目指したい。

  再掲すると、前回の目標は以下の3つであった。

 「連載が減っているのでなんとかしたい。できれば時評の仕事が欲しい」
 「単行本の企画を通したい」
 「もう少しお金が手元に残るようにしたい」
  つまり「新連載」「単行本」「健全な財務体質」の3つである(目標は別にいくつ立ててもいいのだが、期の終わりに自己評価をすることを考えると3つが妥当だろうと思う)。

 この結果を受け、今期の目標を以下のように設定する。

 「旧連載の維持及び新連載(できれば紙媒体)の獲得」
 「決定済みの単行本の執筆・新規企画の獲得」
 「問題児仕事の見極め・金のなる木仕事の育成」


  それぞれについて、詳しく書いてみる。


1)旧連載の維持及び新連載(できれば紙媒体)の獲得

 前期に引き続き、新しい連載の獲得を目指す。と同時に、旧連載を切られることがないように、内容面の強化を行う必要がある。数値としては、

 A旧連載の継続:連載終了0件
 B新連載の獲得:1件以上

  A+Bが1以上となることを目指す。つまり連載が1つ減ったら2つ増やすということだ。2以上で満点、1 で80点、0で60点、-1で40点、以下マイナスが増えるごとに20点減点ということにしたい。ただし紙媒体は2点として扱う。上限下限は100~0点。このご時勢で紙媒体の連載を増やすのは難しいはずだが、なんとかがんばってみます。


2)決定済みの単行本の執筆・新規企画の獲得

 現在、今期中に1本の書き下ろしをするつもりで進行している。これは〆切を厳守して必ず出し、加えて次期(10 月期)以降にも本を出せるように出版社との折衝を図る。4月期の失敗は、書き下ろしに没頭して次期の準備をできなかったことで、それでも1件の単行本仕事が決定したのは僥倖だった。偶然は二度ないので、今期は努力が必要である。
 数値としては、

 A決定済み企画の単行本化:1件(±2点)
 B次期以降の単行本企画実現:1件以上(1点)

 とする。A+Bが3以上になれば満点、2で80点、1で60点、0で40点、-1で20点、-2で0点。上限下限はそれぞれ100~0点だ。Aは+2点か、-2点かのどちらか。つまりAが実現できなかった場合は0点ではなく、2点マイナスになるということである。Bの企画が1つ通ったとしても、Aで失敗すれば差し引きでは-1になってしまう。それだけ達成数値を厳しくして、現状の仕事のポカを防止するのが目的だ。単行本大事。


 3)問題児仕事の見極め・金のなる木仕事の育成

 これも前に書いたが、プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)の考えに基づき、自分の仕事を仕分けるのが第一段階。以下の4つに分けて考える。名称は一般的なもので、「金のなる木」がそのまま自分の仕事でギャランティが高いものを意味するわけではない。

 ・花形製品(市場成長率が高く、市場占有率の高いもの):シェアを維持し、「金のなる木」を目指す。
 ・金のなる木(市場成長率が低くても、市場占有率の高いもの):できる限り利益を大きくする戦略を考える。
 ・問題児(市場占有率は低いが、市場成長率は高い):資金を投入し、「花形製品」に育成するか撤退するかを検討する。
 ・負け犬(市場占有率も低く、市場成長率も低いポジション):顧客サービスに必要でない限り撤退を検討する。

  特に見極めが大事なのは、「負け犬/問題児」「負け犬/金のなる木」の境界だろう。

  現在私が手がけているもので、その判断を必要とするものは以下の3つだ。

 ・新宿BIRIBIRI酒場における「トークイベント」
 ・荻窪ベルベットサンにおける「読書会」
 ・「書評サイト」BOOKJAPAN

  それぞれについて、第一に判断すべきは「需要の有無」だろう。それが無いのであれば即「負け犬」決定なので撤退すべきである。一定の需要があるとすれば次に見なければならないのは、「市場占有率を上げられるか」「利益を確保できるか」という点だ。


  ライター仕事の場合「市場占有率」は「集客力」に置き換えていい。自身の知名度が低く集客力のないものであっても、世に求められている仕事であれば、名前を売ることによって大きく化ける可能性がある。数値目標としてはイベントであれば集客数、サイトであれば訪問数ということになる。それぞれ場所によって目標数値は異なるし、人が多く集まればいいというものではない、というものもある。「読書会」がそうで、多すぎてもうまく運営できなくなる。したがって考え方としては、7月当初の数値を100とし、その維持ができれば及第点ということでいいのではないか。そして数値を増やす目的を(少し甘いようだが)+50%にしてみようと思う。


 「利益の確保」をしなければならないのは、市場成長率が低い、つまり現時点では世間の最先端とは言いがたいテーマの仕事だ。そういう場合でも、自分以外に手がけている者がいないのであれば、踏みとどまって続ける意味はある。ただし利益を確保し、最低でもトントンにする努力は必要だ。したがって±0で及第点、利益が出れば加点ということにしたい。これはいくらとは言いがたいのだが、月にイベントが3本あり、BOOKJAPANの経費(サーバ使用料など)が毎月かかるとして、その差し引きで利益が1万円出れば80点、2万円以上出れば100点ということでいいのではないかと思う。


 以上の2点をまとめるとこういうことになる。「トークイベント」「読書会」「サイト」の3つについて、

  A現在の集客数の維持・向上(+50%~-50%の範囲で、それぞれ2~-2)
  B利益の確保(+2万円/月~-2万円/月の範囲で、それぞれ4~-2)

 なので、A+Bが4で満点、3で80点、2で60点、1で40点、0で20点、それ以下の場合は0点である。つまり集客数と利益が両方とも現状維持だと20点しかつかないので、「負け犬」と判断されても仕方ないということになる。事業を維持したければ、最低でも60点取ることが必要だ。それができて初めて、10月以降に次の段階へと進む資格が得られる。


  配分は、前期とは少し変えて、1)が30%、2)が40%、3)が30%とする。単行本と仕事の整理を重視するということだ。したがって期末評価で1)が100点、2)が60点、3)が80点ならば、  30*1.0+40*0.6+30*0.8=78 となるので80点には届かない。目標は全体で80点を獲ることだ。それ以下なら所詮、杉江松恋は「二流文筆家」なのである。


 以上が脳内経営企画室から、脳内各部門への通達です。
 わかりましたか?
 はーい。
 よろしい。では元気で業務に励みましょう。また来週。

2012年11月9日金曜日

第二回古本ゲリラ11月10日(土)で東方同人誌の委託販売します!

 古本ゲリラと銘打ってはいますが、扱う商品は本以外のグッズも含めさまざま。  詳細情報や出品者名などを公式サイトから引用して紹介します。
日時=11月10日(土)12:00-17:00|会場=17F|無料|事前申込=不要 昼間から酒場と古本屋をハシゴするせんべろ古本トリオ(とみさわ昭仁、安田理央、柳下毅一郎)が主催する、古本フリーマーケット。ライター、漫画家、評論家など各界のクリエイターが蔵書を放出!普通の古本市には出てこない珍本が見つかるかも~。出店者は、青木孝司、浅野耕一郎、Iggy Coen、石原壮一郎、いっしー、伊藤康弘、小野島大、か~ら、加藤賢崇、かに三匹、香山哲、川崎ぶら、喜国雅彦、北原尚彦、国樹由香、酒徳ごうわく、侍功夫、柴尾英令、渋谷直角、 ジャンクハンター吉田、スーパーログ、杉江松恋、竹崎忠、鶴見六百、殿井君人、豊崎由美、新田五郎、速水健朗、パリッコ、原口一也、パリッコ、春山敬、ばるぼら、福田タケシ、船田戦闘機、古澤健、古本屋ツアー・イン・ジャ パン、ベンチウォーマーズ(齋藤裕之介、島田真人、ビキニライン、永井ミキジ、成田敏史、菱沼彩子、堀道広)、松浦達也、真魚八重子、宮原秀一、目崎敬三、元宮秀介、米光一成、ロマン優光...を予定(50音順)。 お問合先=aircollector@gmail.com
 ちなみに杉江が扱う商品は「東方二次創作同人誌」です。  東方創作話の有名作者、浅木原忍さんと、杉江が大好きな漫画家のくまさんにお願いして、それぞれの同人誌の在庫を預からせていただきました。  浅木原忍さんの「Rhythm Five」公式サイト  くまさんの「赤色バニラ」公式サイト  浅木原さんの作品からは、『少女秘封録』シリーズ(京都秘封の新刊含む)と『稗田文芸賞メッタ斬り!』シリーズをお預かりしました。  そう、AXNミステリーのBOOK倶楽部内で、杉江が『メッタ斬り』コンビに実物を紹介してしまったことで波紋を呼んでしまった、あの作品です。  浅木原さんによる一件のまとめ(ご迷惑をおかけしました)。  そして赤色バニラからは 「誰が博麗霊夢を泣かしたか」、「春と夏の境界」、「霧雨魔理沙と秘密の鍵」、「遠き後宮のヤオランチュ」の4アイテムが。  東方オンリーイベントやコミケなどでしか手に取る機会のない東方二次創作同人誌ですが、この機会にぜひご覧になってみてください。そしてよかったら、店番の杉江と東方話で盛り上がりましょう!  アクセス情報はこちらから。すいません、入場料が500円かかってしまうそうです!

2012年9月24日月曜日

10月までの杉江松恋イベントスケジュール

 すでにお気づきの方も多いと思いますが、サイトのトップからその月に杉江が出演するイベントの一覧が見られるようになりました。よろしければ参考にしていただき、どうぞイベントにもお越しください。  また「BIRIBIRI酒場」のイベントに関しては、こちらのフライヤーをプリントアウトしてお持ちいただければワンドリンクが無料になるサービスをやっております。ぜひご利用ください。

2012年9月4日火曜日

イベントレポート作成のアシスタントを募集します

 BookJapanはLive Wireと提携して週に一度(火曜日)トークイベントを開催しています。
 このイベントのダイジェストレポートを作成し、会場にいらっしゃれなかった方にも文字起こしの形で読んでいただけるようにすることを現在検討中です。
 そこで、イベントの録音データを音声起こしし、記事の雛形を作ってくださる方を募集します。記事の最終形は主宰者である杉江が編集しますので、未経験でも大丈夫です。ライターの仕事に関心がある方、ぜひご応募ください。

■募集内容
・音声データの起こしと簡単なまとめ作業。

■報酬
・応相談(記事の種類によって変動あり)。

■実務頻度
・イベントは週1回程度。応募人数によって月あたりの回数は変わります。

■応募視覚
・18歳以上30歳以下(高校生は不可。また年齢などは応相談です)。
・ライターの職業に興味のある方。
・ワープロソフトを使って文章作成が可能な方。
・東京都新宿区のトークイベント会場まで来ることが可能な範囲にお住まいで、事前に杉江と面談が可能な方。

 応募希望者はnewbookjapan★gmail.com(★を@に変えてメールください)にご連絡ください。面談の際には簡単な履歴書をご持参願います。

 やる気のある方からの連絡をお待ちしております。よろしくどうぞ。(杉)

2012年9月2日日曜日

石巻のこと(その2)&9/4喜国雅彦さんトーク

 前回も書いたとおり、8月24~25日に石巻市に行ってきました。地元で食品加工会社の工場長をしていらっしゃるAさんにお招きいただいたからです。前回は災害廃棄物処理場のことを書きましたが、今回は現地で活動しているNPOのことをお伝えしたいと思います。

 Aさんの紹介で、東日本大震災圏域創生NPOセンターを訪問しました。
 ここの代表の高橋さんは本来気仙沼の方ですが、たまたま所用で石巻市に滞在しているときに大震災に遭遇し、Aさんと同じ日和山の避難施設で暮らすことになったのだといいます。高橋さんはその偶然に運命を感じ、石巻市で同じく被災した人のために働こうと考えたのでした。

 高橋さんのNPOは現在、石巻寺子屋という施設を町中で開いています。これは仮説住宅で暮らす小中学生のためのもので、保護者が帰ってくるまでの放課後の時間を子供たちはここで過ごすのです(もちろん中には、親を震災で亡くした子供もいます)。

 私が訪問したときはまだ夏休みでしたが(石巻市では27日から学校が始まったそうです)、数人の小中学生がそこで宿題をしたり本を読んだりしながら過ごしていました。壁には「何時から何時までは勉強の時間」というような貼紙が。何かの用事が終わったのか、寺子屋にやってくる子供たちを高橋さんたちは「お帰り」と迎えていました。あ、懐かしい、この感覚。一緒にいた子供に聞いてみました。

「学童(保育クラブ)みたいじゃない?」
「うん、学童みたい」
「これ、学童だよね」と妻にも同意されました。

 そう。そこはいわゆる学童保育クラブの機能を持つ子供たちの「居場所」でした。うちの子は小学校入学から3年間を学童保育クラブで過ごしたので、親子ともどもその光景に見覚えがあったのでした。懐かしいわけだ。

 高橋さんがNPOの活動としてこの「学童」を作ったのは、「子供を通じた復興」という意図があったからです。なんといっても大事なのは仕事であり、自分の手でお金を稼いで生活を立て直すことです。そのためには、大人が安心して働ける態勢を整えてあげる必要がある。震災で居場所を奪われて淋しい思いをしている子供たちと、震災の前の生活を取り戻すためにがんばろうとしている大人たちの両方を支援するため、高橋さんはこの「石巻寺子屋」を作ったのでした。
 うん、よくわかるわ。子供を預かってくれる場所があれば、安心して働けるもん。

「石巻寺子屋」ができてから1年足らず。多くの障壁に行き当たってきたであろうことは想像に難くありません。たとえば施設の家賃は、行政からの補助では賄うことができず、併設した500円ショップの収入と有志からの寄付金によって充当しているそうです。私も及ばずながら500円ショップに立ち寄って、買物をしました。
 あ、これ射命丸文のフィギュアじゃん!


 葉庭さんの巫女みこ萃香もあるし!


 ……いや、つい趣味に走ってしまいましたが(ちなみに、どちらも〈東方Project〉の同人グッズです。いい買物をしてしまった)、及ばずながら私もこの運営に助力したく、あることを思いつきました。

 それが「組紐ミサンガ」の委託販売です。


 このミサンガは、仮設住宅で暮らす人が手作りしています(一つひとつに、作った方の感謝のメッセージが手書きで封入されています)。仮設住宅でも何か収入の途を、ということで始められたものなのです。

 これを、トークイベントの会場である「BIRIBIRI酒場」で販売していきます。大小とありますが、値段は両方とも500円。収益はすべて、NPOの運営費にしてもらいます。会場でもご案内しますので、気に入ったらぜひ購入してください。販売は9月4日(火)の喜国雅彦さんトークイベントから開始します。本当に偶然なのですが、私が石巻市に行くことが決まってから、喜国さんの被災地ボランティア活動を記した『シンヂ、僕はどこに行ったらええんや』(双葉社)が刊行され、トークイベントの開催を思いついたのでした。何べんも書きますが、運命の不思議を感じずにはいられません。

 喜国雅彦『シンヂ、僕はどこに行ったらええんや』刊行記念トークイベントの詳細はこちら。 

 会場では喜国さんの本も販売予定です。この機会にどうぞお求めください。(杉江)

2012年8月31日金曜日

9月4日のお知らせ&石巻市に行ってきました

 9月4日(火)の夜は、みなさんどんなご予定ですか?  もし特に何もないようでしたら、東京都新宿区の「BIRIBIRI酒場」にお越しください。漫画家の喜国雅彦さんをお招きし、トークイベントを開く予定です。喜国さんはミステリ古書の蒐集家としても有名ですが、昨年3月11日に東日本大震災が起きた後、被災地に赴いて瓦礫除去などのボランティアに従事されました。その体験をノンフィクション『シンヂ、僕はどこへ行ったらええんや』(双葉社)にまとめられましたが、このイベントはその刊行を記念して喜国さんにお話をうかがうものです。

 「喜国雅彦『シンヂ、僕はどこに行ったらええんや』刊行記念イベント」

 当日は新刊の販売も行いますので、本を読んでない方でも問題ありません。また、喜国さんのサインが欲しい方には応じていただけるようにお願いする予定です(というのを喜国さんに伝えるのを忘れてた)。  どうぞよろしくお願いします。

 実は私(杉江)は、8月24日から25日にかけて、宮城県石巻市に行ってきました。  イベントのための取材、というわけではなくて夏前から決まっていた予定なのです。石巻市で食品会社の工場長をされている方が知人の知人で、お招きをいただいたのでした。  その工場長(仮にAさんとしますが)は当然被災者でもあり、3月11日には工場の裏手にある日和山に避難して眠れぬ夜を過ごしたそうです。その体験談をお聞きし、また石巻市が今どのように復興へ向けての取り組みをしているかを教えていただくために、一泊二日という短い日程ですがお邪魔をしてきたわけです。  石巻市を訪れる直前に『シンヂ、僕はどこに行ったらええんや』が出て、その偶然に驚き「これは絶対にイベントのオファーをしないといけない」と即決して喜国さんに連絡を取った、というのが実は今回の実現に至る経緯なのでした。

 石巻市では、復興に向けて動き出しているいくつかの施設を見学しました。そのうちの一つが、災害廃棄物処理施設です。  これは宮城県が各市町村の委託を受けて運営している施設で、津波によってもたらされ、また建築物が崩壊したことで生まれた瓦礫は、現在ここに集積されています。

 このように積み上げられた瓦礫は、作業が進んだ現在でも10メートル以上の高さの山になっています。特に扱いに困るのは畳で、腐敗が進んでガスが発生し、自然発火することがあるといいます。そのため今では、畳だけで一つの区画ができているほどです。

 最初はこのように重機で選別、次に人力で可燃物と不燃物を選り分けます。選別はどんどん枝分かれしていき、リサイクル可能なものがそれぞれ取り分けられていきます。最終的には小さなチップとなり、下のような巨大な炉で焼却されるのです。


 施設の方にうかがったところ、やはり今の最大の問題は最終的な瓦礫の処分場所がないということでした。ごみの選別に当たっては放射能の測定を行い、可能なレベルのもののみを埋め立て処分しています。各自治体にこの協力を呼びかけていますが、焼却処分に手を挙げてくれるところは多くても、肝腎の埋め立てを許可してくれる自治体は驚くほど少ないというのが実態です。中には「焼却処分した後、灰を送り返してくる」ところもあるのだとか。それってどの程度処理の助けになっているんだろうな、と私は思いました。

 この他、いろいろな施設を回ってきました。その話題も、イベントのときには出してみたいと思っています。(杉江)