2013年7月15日月曜日

杉江松恋を査定する・その2

7月3日(水)
『東海道でしょう!』(幻冬舎文庫)はこの日が全国発売日だと思っていたのだが、出庫の日ということで(版元が売上げを立てるのだから発売日で間違いない)、店頭に並ぶのは5日だと判明。仕事のための読書をしながら雑務にも追われる。この時点で5月末に払うべき原稿料を払ってくれていない版元が一つあり、額の多寡はともかくとしてその態度の誠意のなさにいらいらしていた。お金の話はして当然なので版元にも問い合わせをするが、そのたびにどっと疲れる。向こうは勤め人でこちらはフリーランスという立場を痛く思い知らされるからだろう。まあ、負けないけどな。

 子供がこの日から修学旅行で不在だったので、妻と二駅先にある銭湯まで遠征し、帰りに駅前にある居酒屋で飲む。


7月4日(木)
 WEB本の雑誌に原稿送付。この週のお薦めミステリーは匿名作家フィリップ・カーターの『骨の祭壇』(新潮文庫)である。

 某作家の仕事場でインタビューをした後、地下鉄銀座線の稲荷町駅まで足を延ばして「鶴の湯」で休憩。二日連続で銭湯で憩えるのは自分にとってはたいへんな贅沢だ。この鶴の湯はサッシなども木製のままだし、番台方式の昔ながらの銭湯である。タオルを無料で貸してくれた上にボディーソープやシャンプーまでただで使わせてくれるので非常に立ち寄りやすい、いいお湯屋さんなのだ。
 夜は池袋コミュニティカレッジにて定例の講座。この日のテーマは「文章化できない問題は解決できない」。ということで、それぞれが今の制作でぶつかってしまっている課題について、何が障壁になっているのか、それをどうやって解決するつもりか、を1200字程度で書いてきて発表してもらった。聞きながらアドバイスをしているうちにお時間。


7月5日(金)
 晴れて『東海道でしょう!』(幻冬舎文庫)の発売日となった。みなさま何卒よろしくお願い申し上げます。考えてみたら、いわゆる「原作つき」ノベライズ以外の著書はひさしぶりだし、エッセイ本は私を出すのは私にとって初めての体験なのであった。それだけに世評と売れ行きが気になる。世間のみなさまに可愛がってもらえますように。

 午後、某サイトのライター氏が来て、インタビューを受ける。ミステリーがらみの内容で、7月中には公開される由。内容については、いずれそのうち。

 修学旅行から子供が帰還。お土産ということで孫の手をもらった。おお、やるな、わが子よ! ちょうど欲しかったのだ。


7月6日(土)
 LIVE WIREが発行しているメルマガに連載「君にも見えるガイブンの星」を送付。内容は6月21日(金)のイベントで配布したドン・デリーロ特集のレジュメに加筆したものである。この原稿でデリーロの全邦訳著作を俯瞰できてお得、のはず。これからもメルマガではレジュメ原稿などをお配りしていき、またイベントの前には準備の様子なども報告する予定なので、お読みいただけますと幸いです。


7月7日(日
 場合によってはこの日から仙台に入ろうかと思っていたのだが、仕事の進み具合を見て断念。翌日に出発することにした。もろもろの読書と原稿書き。「野性時代」掲載予定の綾辻行人インタビューを仕上げて送付。ほぼ徹夜で原稿を二つ仕上げる。「水道橋博士のメルマ旬報」の連載「マツコイ・デラックス」、課題本は常松裕明『笑う奴ほどよく眠る 吉本興業・大崎洋物語』(幻冬舎文庫)である。博士にお会いしたとき、「出版や音楽業界のタブーに触れる印税率のことが書いてある」と教えていただいていたのだが、読んでみたらそこはあまりたいした暴露ではなかった(音楽業界のほうは知らない)。この程度のことならよく出てくる。それより大崎が営業のやり方を書いた部分のほうがおもしろかった。

 もう一本の原稿は、学研のサイト「ほんちゅ」に載せる道尾秀介・谷原章介対談の第2回までのもの。時間切れで第3回分は勘弁してもらい、切りのいいところまで書いて送った。ここまででもう夜が明けるのはもちろん、そろそろ出発の時刻である。


7月8日(月)
 そんなわけで仙台市へ。新刊『死神の浮力』(文藝春秋)が発売になる伊坂幸太郎氏のインタビューのためである。駅前のメトロポリタン仙台でお話を伺ったのだが、伊坂氏は変わりない様子でお元気であった。

 インタビュー終了後は、バスに乗って萬葉堂書店鈎取店へ。有名な巨大古書店で、特に地階には掘り出しものがごろごろしている。ここに来るためにわざわざ予定を調整し、自腹を切って仙台に一泊することにしたのである。もろもろ収穫があって市内に戻り、街中を散策する。何軒か本屋を回ったが、『東海道でしょう!』はまったく動いた形跡がなかった。東海道から遠く離れた地だけに当然ともいえるのだが、それでのほほんとしていられるほどこの稼業は甘くない。東京に帰ったら必ず編集者と善後策を打ち合わせようと心に刻みこみ、就寝。


7月9日(火)
 昼過ぎに帰京。パソコンを開いてみると週末に送付した原稿のいくつかに修正依頼が来ていたのでとっとと直して再送付する。こういうところでがんばっても仕方ないので、編集者の意図を汲んで直すに限る。時間の無駄だ。

 夜、北尾トロさんの荻窪の事務所「ランブリン」へ。トロさんとえのきどいちろうさんんが毎週火曜日に放映している「北尾トロアワー」において、『東海道でしょう!』の宣伝をさせていただけるというのである。ありがたいことだ。事務所に入ると、なぜか日本体育大学のポロシャツを着ているえのきどさんに遭遇。中央大学出身のはずなのに。「中大パンチ」の発行人なのに! その流れでポロシャツ談義に。トロさんは絶対にポロシャツを着ないのだという。理由は、ポロシャツは胸板のある人間が着るものだから。胸板のあるえのきどさんと、腹肉のある杉江でトロさんを挟んで『東海道でしょう!』についておしゃべり。こちらのアーカイブから視聴が可能です。よろしく。

 終了後はさすがにふらふらになって帰還するも、休めず、そのまま原稿書きに入る。翌日は一日外出のため、仕事の時間がとれないからだ。うぎぎ、と唸りながら原稿。


7月10日(水)
 というわけでまた外出。7時45分に新宿西口のスバルビル前で待ち合わせてロケバスに拾ってもらう。AXNミステリーBOOK倶楽部、夏の恒例行事である野外ロケだ。今回は富士が世界遺産に登録された記念で富士を臨める西湖畔にて。前日に一嵐あったおかげか、雲が吹き飛ばされて霊峰の全貌が見える。ありがたや。

 あちこち回って撮影。途中のコウモリ穴で社会科見学らしい小学生の集団に出くわす。みな礼儀正しく「こんにちはー」と挨拶をして通る。こちらがカメラを構えているのを見た子の一人が「何月何日に放映ですかー」と言ってくるが、曖昧に微笑む。少年よ、世の中には君が見ている地上波だけではなくいろいろな放送があるのだ。
 帰りの高速道路はたいへんに混んで三時間。さすがにこの日は原稿書きもできずに就寝。


7月11日(木)~12日(金)
 なんだかんだで机に向かえる時間がとれない日が連続したので、死ぬ気で仕事。インタビュー原稿を2本仕上げて送付。これは来月の「ダ・ヴィンチ」と「ダ・ヴィンチ電子ナビ」用である。それからWEB本の雑誌用にコーマック・マッカーシー『チャイルド・オブ・ゴッド』(早川書房)の書評。

 ここまで書いてこなかったが、翌週には芥川・直木両賞の発表もあるので、全候補作も読まなければいけない。紆余曲折はあったが、下北沢B&Bで受賞作決定後にメッタ斬りコンビの大森望さん、豊崎由美さんに混じって候補作を振り返るトークイベントをやることも決定した。それに併せてエキレビでまた全作レビューもやるので、準備をしなければならない。翌日は恒例の辻真先さんイベントだ。
 まあ、いろいろあるわけだよ!


7月13日(土)
 夕刻から新宿BIRIBIRI酒場にて、辻真先さんに過去のお仕事を回顧していただくトークイベント。今回は1983年のお仕事と、看板の1つである〈迷犬ルパン〉シリーズについて振り返っていただいた。〈迷犬ルパン〉についてここまで突っ込んでお話をうかがったインタビュー、イベントはこれまで無かったはずであり、私がいちばん楽しませていただいた。役得である。次回は8~9月の予定だが日程はまだ決まっていない。9月に〈ポテト&スーパー〉シリーズの完結篇が出るので、それに合わせたいと思っている。乞うご期待。


7月14日(日)
 ぐったりしつつも仕事。ほぼ一日本を読んで過ごし、細々と原稿も。一本は「早稲田文学」のためのもので、内容はまだナイショ。
 もう一本は19日に迫った「杉江松恋のガイブン酒場」の告知文。今回はコーマック・マッカーシー特集だが、新刊も3冊紹介します。マッカーシー『チャイルド・オブ・ゴッド』、ジンバブエの作家ペティナ・ガッパ『イースタリーのエレジー』(新潮クレストブック)、イタリア作家ステファノ・ベンニの奇想短篇集『海底バール』(河出書房新社)の3冊である。こちらもぜひご観覧ください。


というわけで嵐のような日々はおしまい。違う方向への努力は今回お休み、死なないようにするので精一杯でした。毎日の仕事をコツコツやるのも大事なのだよ、うん。



2013年7月3日水曜日

杉江松恋を査定する・その1(違う方向に努力する・改)

 こんにちは、杉江松恋です。
 前回まで北尾トロさんの「ヒビレポ」で連載させてもらっていた業務日誌を、所を変えてこちらで継続することにしました。杉江松恋がライターとして日々どんな活動をしているか、書けることはだいたい書いています。ご参考になるかどうかはわからないのですが、よかったら読んでください。


  6月24日(月)

 これが最終回となる「ヒビレポ」の「杉江松恋の違う方向に努力する」と「水道橋博士のメルマ旬報」の原稿を送付。おそろしいことに「メルマ旬報」は配信前日である。つまり土俵際、というか徳俵に足がかかった状態、本当ならギリギリで原稿は落ちるタイミングだ。あまりの暴挙に反省。「メルマ旬報」の書評課題作は清水ミチコ『主婦と演芸』(幻冬舎)だった。書き終えてから書籍化の担当編集者が『東海道でしょう!』でお世話になったガース氏であることに気づく。
 その後、某新刊の帯に載せてもらう推薦文を考える。自分にはコピーライティングの才能がないと思っているので、推薦文を書くのは苦手だ。ごくごく短めの書評をやっているつもりで70字にまとめてみた。


  6月25日(火)

 午前中、講談社にて『襲名犯』で今年の乱歩賞を獲得された竹吉優輔氏にインタビュー。竹吉氏の原稿は自分の一次箱に入っていたものなので、感慨深い。
 護国寺、鬼子母神と続けて参詣してから帰ろうと思っていたのだが、雨が激しくなってきて断念。とっとと帰宅する。ひたすら仕込みのための読書と6月末〆切りの某賞のための下読み。家にいると業務連絡メールが立て続けにくるので精神衛生上ヨクナイ。


  6月26日(水)

 前日からラストスパートをかけていた下読みを終わらせ、評価を編集者に送付。また、先週の道尾秀介・谷原章介対談の音声起こしが上がってきたので、手を入れて編集者に転送する。あとはメールでスケジュール調整に忙殺。この日だけで7月の予定はすべて決まってしまった感じだ。一日を終えてから、7月はもっと余裕のある日程にすべきだった、と少し後悔する。しかしライターだから来た球は全部打ち返すのが基本だ。


  6月27日(木)

「WEB本の雑誌」原稿がまだだったので、腹を決めて長岡弘樹『教場』(小学館)に決めて書き、送付。その日のうちに掲載された。
 この日だったかは怪しいのだが、面識のない方からメールをいただき、その返信の仕方に少しだけ悩んだ。選択肢は二つあって、好かれる返事と嫌われるかもしれない返事のどちらも可能である。考えた末に嫌われるかもしれない返事のほうを選んだ。好かれる返事のほうを選択すると、その場はいいかもしれないが後で後悔する可能性が大だからだ。もういい年なので、八方美人でばかりもいられない。嫌われるべきときはしっかり嫌われないといけないのだと思う(ありがたいことにメールは真意がきちんと伝わり、誠意ある態度を先方から取っていただけた。感謝)。これが今週努力したことだな。「嫌われる覚悟で筋を通す」だ。
  夜は先週体調不良でお休みした池袋コミュニティカレッジの講座。受講者の提出物にコメントし、再提出を求める。かつ、「現時点での自作の課題について1200字でまとめる」ことを要請。言語化できない問題点や課題は、結局解決不能。しかし言語化できたこと自体に満足してしまえば、それもやはり解決不能。自分で自分の背中を押せるように、うまいこと「指示書」を書ければ正解だ。


  6月28日(金)

『東海道でしょう!』(幻冬舎文庫)の見本が到着。企画が持ち上がってから、ここまで約1年半かかった。長かったなあ。

   

 夕方から都内某所に移動し、「水道橋博士のメルマ旬報」企画会議の場にお邪魔する。目的は水道橋博士に「なぜメルマガなのか」のインタビューをすること。博士に直接お会いするのは10年ぶりぐらいか。いや、もっとだ。あとでtwitterに、サングラスを外したところは初めて見た、と書かれていた。そういえばそうだ。もう会社員ではないしPTA会長でもないので、顔を隠す必要がなくなったからです。
 取材に同行してくれた編集Cと、後から来てくれた編集Kとともに渋谷でしばし打ち合わせという名の飲み会。ただしいろいろ真面目に相談する。テーマは「7~9月期の杉江松恋の目標について」。例によっていろいろダメ出しをされる。相変わらず君らは手加減ないね。


  6月29日(土)~30日(日)

 一応仕事はしたが、基本的にはオフ日。翌週には子供が修学旅行に出かけるので、その支度などでいろいろ忙しくはあった。


  7月1日(月)

 都内某所にて道尾秀介さん対談企画の第二回を収録。道尾さんがご自身でtwitterに書かれていたので情報解禁でいいと思うが、お相手は女優の佐藤江梨子さんである。実は以前、佐藤さんが主演された映画「口裂け女 the movie」のノベライズを手がけたことがあり縁はなくもないのだが、そのことは言わずにおいた。というのもノベライズは、映画とはほぼ無関係な別の話であり、佐藤さんが演じた教師の主人公などもまったく登場しない内容だからである。版元の富士見書房から自由にやっていいと言われて本当に好き勝手やらしてもらった愛着ある作品。口裂け女が出てくるときの生理的な嫌悪感を出そうと思って、大量のフナムシと一緒に現れることにしたり、口が裂けた理由を自分なりのエピソードで補ってみたり、書いていて楽しかった……という話は、当たり前だが対談のテーマとは関係ない。つまり話題としては没にするのが妥当であった。
  終了後はしばらくウォーキングをして帰宅。歩数が一万を超えた。


  7月2日(火)

 自分としては珍しく一日出ずっぱりだった。まず正午に高田馬場で編集者と落ち合い、某誌の次々号の企画についていろいろとブレスト。この段階で7月の予定はパンパンになっているのだが、あまり考えないようにする。いざというときは記事を他の人に書いてもらえば済む話である。
 その後同じ高田馬場で歌野晶午さんにお会いし、インタビュー取材。歌野さんには2012年の年末、ほとんど仕事納めという日にも取材を行っていた。お会いするのはそれ以来である。
 取材終了後は歩いて渋谷を目指した。明治通りをひたすら歩けば渋谷には着くのだが、途中で間に合わないと判断し、新宿三丁目~明治神宮前を二駅分ショートカットした。渋谷では『楽園の蝶』(講談社)を出されたばかりの柳広司さんを取材。柳さんにお会いするのも何年前か覚えていないぐらいひさしぶりだ。
  その後、渋谷で別件の打ち合わせ。編集Aとこれまたひさしぶりの対面で今後のことについてあれこれ。Aは今年の春から環境が大きく変わって、まだその調整期にある。とにかく健康第一でがんばって、と言って別れた。

  こんな感じの一週間でした。


  終わりに、7月期も始まったことであるし、この四半期の目標について書いてみたいと思う。  前期の目標とその反省については「ヒビレポ」連載の最終回に書いた。 自己評価は72点、通信簿の評価で言うと「3」で、これでは「二流」止まりということになる。なんとか「一流」を目指したい。

  再掲すると、前回の目標は以下の3つであった。

 「連載が減っているのでなんとかしたい。できれば時評の仕事が欲しい」
 「単行本の企画を通したい」
 「もう少しお金が手元に残るようにしたい」
  つまり「新連載」「単行本」「健全な財務体質」の3つである(目標は別にいくつ立ててもいいのだが、期の終わりに自己評価をすることを考えると3つが妥当だろうと思う)。

 この結果を受け、今期の目標を以下のように設定する。

 「旧連載の維持及び新連載(できれば紙媒体)の獲得」
 「決定済みの単行本の執筆・新規企画の獲得」
 「問題児仕事の見極め・金のなる木仕事の育成」


  それぞれについて、詳しく書いてみる。


1)旧連載の維持及び新連載(できれば紙媒体)の獲得

 前期に引き続き、新しい連載の獲得を目指す。と同時に、旧連載を切られることがないように、内容面の強化を行う必要がある。数値としては、

 A旧連載の継続:連載終了0件
 B新連載の獲得:1件以上

  A+Bが1以上となることを目指す。つまり連載が1つ減ったら2つ増やすということだ。2以上で満点、1 で80点、0で60点、-1で40点、以下マイナスが増えるごとに20点減点ということにしたい。ただし紙媒体は2点として扱う。上限下限は100~0点。このご時勢で紙媒体の連載を増やすのは難しいはずだが、なんとかがんばってみます。


2)決定済みの単行本の執筆・新規企画の獲得

 現在、今期中に1本の書き下ろしをするつもりで進行している。これは〆切を厳守して必ず出し、加えて次期(10 月期)以降にも本を出せるように出版社との折衝を図る。4月期の失敗は、書き下ろしに没頭して次期の準備をできなかったことで、それでも1件の単行本仕事が決定したのは僥倖だった。偶然は二度ないので、今期は努力が必要である。
 数値としては、

 A決定済み企画の単行本化:1件(±2点)
 B次期以降の単行本企画実現:1件以上(1点)

 とする。A+Bが3以上になれば満点、2で80点、1で60点、0で40点、-1で20点、-2で0点。上限下限はそれぞれ100~0点だ。Aは+2点か、-2点かのどちらか。つまりAが実現できなかった場合は0点ではなく、2点マイナスになるということである。Bの企画が1つ通ったとしても、Aで失敗すれば差し引きでは-1になってしまう。それだけ達成数値を厳しくして、現状の仕事のポカを防止するのが目的だ。単行本大事。


 3)問題児仕事の見極め・金のなる木仕事の育成

 これも前に書いたが、プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)の考えに基づき、自分の仕事を仕分けるのが第一段階。以下の4つに分けて考える。名称は一般的なもので、「金のなる木」がそのまま自分の仕事でギャランティが高いものを意味するわけではない。

 ・花形製品(市場成長率が高く、市場占有率の高いもの):シェアを維持し、「金のなる木」を目指す。
 ・金のなる木(市場成長率が低くても、市場占有率の高いもの):できる限り利益を大きくする戦略を考える。
 ・問題児(市場占有率は低いが、市場成長率は高い):資金を投入し、「花形製品」に育成するか撤退するかを検討する。
 ・負け犬(市場占有率も低く、市場成長率も低いポジション):顧客サービスに必要でない限り撤退を検討する。

  特に見極めが大事なのは、「負け犬/問題児」「負け犬/金のなる木」の境界だろう。

  現在私が手がけているもので、その判断を必要とするものは以下の3つだ。

 ・新宿BIRIBIRI酒場における「トークイベント」
 ・荻窪ベルベットサンにおける「読書会」
 ・「書評サイト」BOOKJAPAN

  それぞれについて、第一に判断すべきは「需要の有無」だろう。それが無いのであれば即「負け犬」決定なので撤退すべきである。一定の需要があるとすれば次に見なければならないのは、「市場占有率を上げられるか」「利益を確保できるか」という点だ。


  ライター仕事の場合「市場占有率」は「集客力」に置き換えていい。自身の知名度が低く集客力のないものであっても、世に求められている仕事であれば、名前を売ることによって大きく化ける可能性がある。数値目標としてはイベントであれば集客数、サイトであれば訪問数ということになる。それぞれ場所によって目標数値は異なるし、人が多く集まればいいというものではない、というものもある。「読書会」がそうで、多すぎてもうまく運営できなくなる。したがって考え方としては、7月当初の数値を100とし、その維持ができれば及第点ということでいいのではないか。そして数値を増やす目的を(少し甘いようだが)+50%にしてみようと思う。


 「利益の確保」をしなければならないのは、市場成長率が低い、つまり現時点では世間の最先端とは言いがたいテーマの仕事だ。そういう場合でも、自分以外に手がけている者がいないのであれば、踏みとどまって続ける意味はある。ただし利益を確保し、最低でもトントンにする努力は必要だ。したがって±0で及第点、利益が出れば加点ということにしたい。これはいくらとは言いがたいのだが、月にイベントが3本あり、BOOKJAPANの経費(サーバ使用料など)が毎月かかるとして、その差し引きで利益が1万円出れば80点、2万円以上出れば100点ということでいいのではないかと思う。


 以上の2点をまとめるとこういうことになる。「トークイベント」「読書会」「サイト」の3つについて、

  A現在の集客数の維持・向上(+50%~-50%の範囲で、それぞれ2~-2)
  B利益の確保(+2万円/月~-2万円/月の範囲で、それぞれ4~-2)

 なので、A+Bが4で満点、3で80点、2で60点、1で40点、0で20点、それ以下の場合は0点である。つまり集客数と利益が両方とも現状維持だと20点しかつかないので、「負け犬」と判断されても仕方ないということになる。事業を維持したければ、最低でも60点取ることが必要だ。それができて初めて、10月以降に次の段階へと進む資格が得られる。


  配分は、前期とは少し変えて、1)が30%、2)が40%、3)が30%とする。単行本と仕事の整理を重視するということだ。したがって期末評価で1)が100点、2)が60点、3)が80点ならば、  30*1.0+40*0.6+30*0.8=78 となるので80点には届かない。目標は全体で80点を獲ることだ。それ以下なら所詮、杉江松恋は「二流文筆家」なのである。


 以上が脳内経営企画室から、脳内各部門への通達です。
 わかりましたか?
 はーい。
 よろしい。では元気で業務に励みましょう。また来週。